生きる

生きているということ
今生きているということ
それはのどがかわくということ
木もれ陽がまぶしいということ
ふっと或るメロディを思い出すということ
くしゃみをすること
あなたと手をつなぐこと

 

生きているということ
いま生きているということ
それはミニスカート
それはプラネタリウム
それはヨハン・シュトラウス
それはピカソ
それはアルプス
すべての美しいものに出会うということ
そして
かくされた悪を注意深くこばむこと

 

生きているということ
いま生きているということ
泣けるということ
笑えるということ
怒れるということ
自由ということ

 

生きているということ
いま生きているということ
いま遠くで犬が吠えるということ
いま地球が廻っているということ
いまどこかで産声があがるということ
いまどこかで兵士が傷つくということ
いまぶらんこがゆれているということ
いまいまが過ぎていくこと

 

生きているということ
いま生きているということ
鳥ははばたくということ
海はとどろくということ
かたつむりははうということ
人は愛するということ
あなたの手のぬくみ
いのちということ

 

『生きる』 谷川俊太郎

 

 病院の待合室で、それはいまから数ヶ月前のこと、偶然YouTubeの関連動画で知ったばかりの、或るメロディをふっと思い出したのだ。それは不可思議/wonderboyという夭逝したあるラッパーの楽曲で、僕は思い出したその<生きているということ、それはミニスカート>から始まるフレーズを何度も反芻しながら、ほんのすこしだけ泣いた。誰にも見られないように涙を拭ったけれど、おそらく何人かは気がついていただろう。